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武蔵坂学園高校三年生 イフリートを屠る者 近衛朱海の辿る標。

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2013/05/18 (Sat)
近衛朱海の墓参り
灰の記憶を掘り出しに。

地獄合宿、梅田に向かう途中。

近衛の家の菩提寺は京都にある。
5月、葉桜を濡らす雨の中、観光客の切れ目を見計らったように朱海はそこを訪れた。
整然と並ぶ墓石。豪奢でもなく、さりとてうらぶれたものも無く、どれもが同じような顔をして並んでいる。

その中でも端のほう、周囲と比べてまだ真新しい御影石の前で彼女は立ち止まった。
「ご無沙汰しておりました、お父様。」
そう言って墓石に向かってお辞儀をすると、雨の中にもかかわらず丁寧に柄杓で水をかけ、手拭で御影石を磨いてゆく。

「父様の仰るとおり、武蔵坂学園の灼滅者たちは素晴らしい方々ばかりで私も身が引き締まる思いです」
手を動かしながら朱海は語りかける
「もう少し早く行くべきでしたね…でも、今は仲間とともに鍛錬に励み、この前も炎獣を一体屠ってきたところです」
にこ、と微笑むその顔は学園では見られない無邪気なものだ。中学生に上がったばかりの少女が、初めての定期テストで満点を取って喜んでいるかのような。

一通り掃除が終わっても、朱海は墓石に手を触れたまま楽しげに言葉を投げかけ続ける。
そのさまは、他の参拝客がいたらぎょっとして住職に通報しかねない、気味の悪いものだった。
なまじ目鼻立ちが整っているだけに、あたかも幽霊のような、この世のものでないような…

そうしたまま四半刻ほどたつと、漸く彼女は立ち上がり花と酒を墓前に備えて
「また、よい報告があればその時に参りますね、お父様。」
そう墓石に別れの挨拶をすると、踵を返して墓所の出口へとすたすたと歩いてゆく。
その表情は先ほどの子供じみたところはなく、年齢以上に落ち着いた女性の顔に戻っていた。

「…あぁ、濡れてしまったわね」
ふと気づいたように己の右手を見やる。先ほどまで墓石に触れていた手。
そこに一瞬ぼっと炎が立ち上り、水滴を蒸発させる。

わかっているのだ。さっきまで話しかけていたあれはただの石で、その下にはかつて肉であり骨であった灰が土とない混ぜになって埋まっているだけだ。
あの時、灼熱の炎に飲まれ何もかも灰になってしまった。
その冷え切った灰に勝手に誓いをたて、自らも焼かれるとも知れぬ戦いに身を投じている。
自己満足だ。それ以外の何者でもない。

そう心の中で断じ、朱海は振り返る。
目線の先には真新しい御影石。

ああ、わかっているのだ。しかし、いつものようにその無機物は朱海の心を捕らえる。
「…また、参りますね、お父様。」

それが他の墓石に溶け込むのはまだまだ先のようだった。
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